「結局、自分でやった方が早いんです」
「何度言っても同じミスをするから、つい自分で巻き取ってしまいます」
企業研修や現場での対話を通じて、優秀なプレイングマネージャーの方々からこのようなジレンマや疲弊の声をよく伺います。
目の前の締め切りや業績目標を考えれば、「自分でやってしまう」のは短期的には正解かもしれません。しかし、その状態を続けることが長期的にどのようなデメリットをもたらすか、一度立ち止まって考える必要があります。
任せないことで発生する「長期的なデメリット」
「自分でやった方が早い」と抱え込み続けると、組織と個人の両方に以下のような代償を支払うことになります。
- いつまで経っても「人が育たない」
部下が試行錯誤し、失敗から学ぶ機会を奪ってしまうため、永遠に「指示待ち」の状態から抜け出せません。 - 自分が「いつも忙しい状態」から抜け出せない
目先の業務とフォローに追われ、マネジメント本来の業務に割く時間がなくなります。 - 自分自身の「次のステップ(キャリアアップ)」に繋がらない
自分が現場の仕事を握り続けている限り、新たな仕事の創出や、より高い視座での戦略立案など、自身のキャリアアップに必要な経験を積むことができなくなります。
部下に仕事を「任せる」ことは、部下の成長のためだけでなく、「管理職ご自身のキャリアの余白づくり」でもあるのです。この事実を実感していただくことが、変革の第一歩になります。
陥りがちな「2つの無意識の罠」と部下の心理
頭では「任せた方がいい」と分かっていても、ついやってしまう行動があります。
- 無意識のうちに「不満や焦り」を口や態度に出してしまう
- 悪気なく「良かれと思って」先回りして手出し(手直し)をしてしまう
上司が態度で焦りを表したり、途中で仕事を引き取って完璧に手直しをしたりすると、部下は心の中でどう感じるでしょうか。
「どうせ後で直されるんだから適当でいいや」
「自分は信用されていないんだ」
このようなメッセージとして伝わります。その結果、当事者意識が薄れ、失敗経験がないためいつまで経っても成長しません。さらに「信用されていない」という思いは繋がりを希薄にし、チーム全体の力を低下させてしまうのです。
「作業の指示」から「ゴールと問いかけ」へ
では、どうすればよいのでしょうか。まずは、やり方を細かく指示するのではなく、部下が自分で考え始めるための「問いかけ」を投げます。
【問いかけの例】
- 「この仕事の最終的なゴールって何だと思う?」
- 「〇〇さんなら、どう進めようと思う?」
このように問いかけることで、部下は自らの頭で考え始めます。
しかし、この「問いかけ」はあくまで準備段階に過ぎません。管理職にとって本当に試されるのは、この次のステップです。
マネジメントにおいて「最も重要なスキル」、それは『待つこと』
部下に問いかけ、仕事を任せた後、管理職には最大の試練が訪れます。それこそが、マネジメントにおいて最も重要で、最も難易度の高いスキルである「待つこと」です。
プレイヤーとして優秀で仕事が早い人ほど、部下が不格好に悩んでいる姿や、時間がかかっているプロセスを見ると、つい手出しをして「正解(やり方)」を教えたくなります。
しかし、人が最も成長するのは、上司の完璧な指示を聞いている時ではありません。「自ら悩み、試行錯誤している時間」にこそ成長の芽が育ちます。
親が子どもの靴紐を代わりに結んであげれば一瞬で終わりますが、それでは子どもは一生自分で結べるようになりません。「自分で結び終えるまでじっと待つ」のと同じように、ビジネスにおいても「部下が自分の力で答えにたどり着くのを待つ」ことこそが、上司が提供できる最高の育成環境なのです。
まとめ:目先の「早さ」を手放し、信じて待つ勇気を
「手を出さずにグッと堪えて待つ」というのは、優秀な管理職にとって非常に痛みを伴うハードな挑戦です。
しかし、「自分がやった方が早い」という目先の誘惑を手放し、部下を信じて待つ勇気を持つこと。その「待つ時間」への投資が結果的に、自走する強いチームを生み出し、ひいては管理職ご自身の次なるキャリアアップの道を切り拓いていくのです。
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